【ネタバレ観劇感想】ピースピット2017年本公演『グランギニョル』

 

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グランギニョル

吸血鬼社会を舞台に描かれる人気の根強い舞台『TRUMP』シリーズの最新作。観劇して参りました。シリーズはたまたま直近で評判を聞きつけてシリーズの冠が付くものは全て拝見していたのですが、”ゴシックサスペンス”と呼ばれるに相応しい唯一無二の世界観は今まで、いやそれ以上に洗練されて存在していました。

 

TRUMPシリーズは現在

『TRUMP』『LILIUM』『SPECTER』

 

Dステ12th『TRUMP』Blu-ray
 

 

 

 

 

 



 

の3作品がシリーズとして過去に上演されています。どの話も独立した話としても成り立っていますし、比較的末満さんの脚本は世界観や設定の説明を劇中に丁寧に入れてくれるのでどこから観ても楽しめると思いますが、全て観て他の作品との繋がりに気づくとより深淵たる絶望に打ちひしがれる巧みな作りになっています。

 

以下公式HPより今作のあらすじを一部抜粋させて頂きました。

名門家系の貴族であり、吸血種たちの最高統治機関《血盟議会》で将来を嘱望された若手議員ダリが、ゲルハルトというライバルと反目しあいながら《ある事件》を追うサスペンス劇です。吸血種たちの、絢爛豪華な社交界の裏で蠢く陰謀に近づきながら、ダリは自分の過酷な運命と向き合うこととなります。

今作の主人公ダリ・デリコとライバルのゲルハルト・フラは『TRUMP』に登場する繭期のヴァンプのウル・デリコとラファエロ・デリコ、そしてアンジェリコ・フラの父親に当たります。彼らの若かりし頃の話が紐解かれた時に新たな答えと闇が広がっていきます。

ここから先は毎度の如く過去シリーズも踏まえて盛大なネタバレを含む感想を展開するので読む方はご容赦ください。

 

絶望へ向かう希望と言う名の布石

 

グランギニョル』も過去作品と同様に作品単品でも完結しています。この作品だけを見ると絶望の中にも未来へ微かな希望が灯る様に見えます。”永遠の繭期”に閉じ込められていたキキは仲間の手によりその中から抜け出し、未来には誰かと結ばれ子孫を残すことを暗示されますし、スーの遺した子供ウルに実の父親(実際はちょっと違いますが。)のいわば呪いのようなイニシアチブを打ち消すかの様に「強く生きろ」とイニシアチブの元に命じるダリのラストシーンも未来への希望を暗示するシーンに取れると思います。

しかし、これら先の希望に繋がりそうな描写は見事に他のシリーズの話で全て絡め取られ絶望へと色を変えていくのです。シリーズ通して作品を知っている人にとってはここで希望を見せられてしまう事が事の顛末を知っている分逆に果てしなく辛い。

 

グランギニョル』を見て一番最初に頭を過ぎったのは『TRUMP』に登場するダリとゲルハルトの息子ラファエロ、アンジェリコ、そしてウルのことでした。

 

作中で明らかになるダリの息子ウルの出生の秘密。彼は腹違いの息子でもなんでもなく、いわば赤の他人。しかも短命で人間からも吸血鬼からも忌み嫌われるダンピールという存在。その上ダリ家は血統を重んじる吸血鬼社会に置いて、最上級の家系。ダンピールを家におくなど言語道断だったのではなかろうかと思うのです。

しかし、ダリを助けた女性スーとの約束、そして愛する妻フリーダの最期の願いというだけではなく、ダリ自身もラファエロ同様ウルも実の息子としてちゃんと愛していた。だからこそ『TRUMP』ではあの実の父親の呪いのことを知るが故にソフィに冷たく当たり、ソフィとウルを引き離そうとしたのだろうと言うことが垣間見えてきます。(実際ウルにかけられたイニシアチブは、実の父親とダリとはどちらの意思が強く優っていたのかは…『TRUMP』を観た人の判断…ということなのでしょうね。)ダリは誰よりも気高くそして、誰よりも家族を愛していた。それが垣間見えてしまうからこそ…苦しい。

 

そして、ゲルハルトは家を家族を守ることに執心すると同時に、永遠の命を望み、”TRUMP”を信仰していた1人でもありました。棄教したとは言え、その望みが全て易々と消えるはずが無いと私は思うのです。そして実の母親から忌み嫌われ、結果彼女を自殺に追い込んだ引き金とは言え、たった1人だけ残った大切な息子を…家を守ると言う意味でも、守るべき対象の息子自身と言う意味でも…自らもその存在に焦がれ、その存在に何よりもなりたかった”TRUMP”に殺されてしまった。なんという皮肉な運命。

 

彼らの守ろうとしていた大切なものは全て”TRUMP”の手によって消し去られてしまうのです。だからこそ『グランギニョル』と『TRUMP』を繋げて考えるとそれらが如実に解ってしまう分『グランギニョル』を見た後に黒い染みが広がる様な荒涼とした気持ちになるし、尚一層あの『TRUMP』の顛末が絶望感を帯びてくるのです。『TRUMP』のダリとゲルハルトはどのような気持ちであったのだろうか。そしてその先大切なものを全て”TRUMP”に奪い取られてどのようにして生きていくのだろうか…彼らの行く末が残酷ながら気になってしまいます。

 

余談ですが、キキの未来の遠い先の子孫は『LILIUM』に出てくるマリーゴールドであるだろうことも想像出来ます。しかしマリーゴールドも…グランギニョルで灯される希望は全て摘み取られていきます。

そういう意味でもある種真の意味で残酷劇かもしれません。

 

貴族が貴族たる俳優陣の強さ

 

ここから先は作品の感想ではなく、俳優さんの感想になるのですが、末満さんに主演2人は「この世代で一番貴族が似合う2人を選んだ。」というお墨付きがあるだけあってどこをどう切り取っても貴族!豪奢な衣装に負けないだけの美貌と雰囲気を持っています。

正直グランギニョルは出演者も豪華ですが、何より主演の二人を見るだけでもチケット分の価値はあります。絶対。気持ちはルーベンスの絵を垣間見るネロとパトラッシュの気分です(笑)

 

三浦さんの女性と見まごう美しき美貌と品のある立ち振る舞い。男性なのにあのコルセットガッツリな衣装を着こなしてしまうとは何事!?

そして両手で星を掴もうとする動作はもう画としても美し過ぎて本当に宗教画の様で…

また、気位の高い感じや時折見せるダリに向ける妖艶な空気。美しさと妖しさを見に纏ったどこからどう切り取っても”ゲルハルト・フラ”!!歌もお上手なので個人的には劇中歌を歌って欲しかった…

ゲルハルト割と気位は高くても中身は脆そうな印象なんですけど、あんなゲルハルトからどうやったらアンジェリコみたいな息子が育つのか割と不思議でした。いや、家系を重んじると言う点では納得なのかもしれません。

 

そして染谷さんのダリ・デリコ。

実は私染谷さん結構応援しておりまして、過去にこんなブログを書いたことがあります。

推しの話をしてみよう - 世界の中心で好きを好きだと叫びたい

この染谷さんの項に書いた”こんな役やって欲しいな〜”が

全てダリ・デリコではないですか〜〜!!!

と一人で後から読み返して勝手に打ち震えました。派手な殺陣と綺麗な太刀筋、

翳りがあって、ちょっと狂気を孕んだシーンもありつつとにかく強い。いろんな意味で強い。豪奢な衣装をヒラヒラと翻してと見下した瞳で見下した台詞を言い放つダリを見て「私!こういう染谷さんめっちゃ待ってた!!」とちょっとだけ話そっちのけで興奮したのは言うまでもありません…

多分刀剣乱舞がきっかけのご縁なのかなあ…と勝手に思っているのですが、好きな俳優さんが好きな舞台手掛けてる演出家さんに見初められて素敵な舞台でお仕事戴けるのってファンとしてもめちゃくちゃ嬉しいのでめっちゃ個人的なんですけど本当にありがとうございますな気持ちでいっぱいです(笑)

 

 

作品としても演者のレベルと言う点でも、そしてブログ中では言及しませんでしたが劇中音楽も素晴らしい『グランギニョル

シリーズの深淵たる闇はこれからも広がっていくのかと思うと身悶えします。私もまだまだTRUMPシリーズ初心者ですが、是非この作品で興味を持った方は他の作品を観ることをお勧めします。きっと想像を超える絶望が貴方の前に広がるはずです。