芳崎せいむ先生の漫画の話

 

先日ツイッターのタイムラインを眺めていたらこんなニュースが目に飛び込んできた。

 

 

 

この第1回さいとう・たかを賞に輝いた『アブラカダブラ』は連載当初からずっと読み続けているので、受賞のニュースを聞いた時それはそれはそれは言葉には表現し難い位にとても嬉しかった。

 

アブラカダブラ ~猟奇犯罪特捜室~ 3 (ビッグコミックス)

アブラカダブラ ~猟奇犯罪特捜室~ 3 (ビッグコミックス)

 



先の展開が全く読めないサイコサスペンス。脳科学や宗教的な観点が要所に織り交ぜられており、恐らく文章で読むと難解になってしまいそうな内容だが、芳崎先生の作画で抵抗なくすっと内容が入ってくる。(最新刊の帯の錚々たる先生方のコメントに丸かぶりしてしまっているが、本当にそう思うのだ。)最新刊であり、3巻は最近発売されたのだが話が進めば進むほど予想の斜め上を進む展開になって行っており、今や全てが怪しいし疑わしい。続きを読むのが待ち遠しい。

 

ちなみに、私は何を隠そうこの作品の作画をされている芳崎せいむ先生の大ファンなのである。

 

初めて触れた芳崎先生の作品は今は無き講談社から刊行されていた『Amie』という雑誌の連載『風のゆくえ天のめぐり』と言う作品だった。

 

 



古代の幻の鏡片を巡り、雑誌記者と考古学者の主人公2人が手がかりを求めて様々な地へ足を運ぶ。その鏡片の手がかりを探す道中を通して、様々な人と出会い、自分の過去と向き合い、"新天地"(決して場所や環境だけの意味ではない。)を見つけ出す、一種のロードムービーを彷彿とさせる漫画だった。

私は元々なかよし読者で、なかよしの姉妹誌であり、なかよしでも連載していた有名な作家さんの作品が目当てで読んでいたのだが(今思えば連載陣が錚々たるメンバーだったように思う。)その中で掲載されていたこの作品の今まで自分が触れてこなかった、静かなドラマチックさと当時からすると"少し大人"な雰囲気に一気に魅了されてしまったのである。

 

そこから芳崎せいむ先生の作品を追いかける日々が始まった。

 

やはり代表作と言えば『金魚屋古書店』になるのだろうか。

 金魚屋古書店 コミック 1-16巻セット (IKKI COMIX)

 

金魚屋古書店 コミック 1-16巻セット (IKKI COMIX)

 

 

各話で1冊の漫画を巡って様々なドラマが展開されるオムニバス形式の漫画である。話としては1話で完結するものが多いが、登場人物は基本的に共通だし、前の話が後の話に繋がってくることも多い。

前身である『金魚屋古書店出納帳』が当時少年画報社から刊行されていたアワーズガールという雑誌に掲載されていた時から、その後移籍して小学館から刊行されていた『IKKI』に至るまで大変お世話になった。

 

金魚屋古書店』もそうなのだが、芳崎先生は長編・中編の作品もとても素晴らしいのだが、短編の角度や瞬間の切り取り方が鮮やかだな…と常に思っている。また、同時に芳崎先生の作品は非常に現実的な非現実を見せてくれる。今そこに存在して、寄り添ってくれるような作品なのだ。ドラマチックだけれど、肩肘を張らずに良い意味で不自然さがないフィクションなのだ。どんなに現実と乖離していてもそれがどこかで起こっているように感じる現実的な非現実。どんな存在も否定されない。お伽話の様に上手くいかないこともある。そして、その人の最善や幸せは他者から計り知れない。どんな存在であっても。どんな道を進んでも。…それが自分が例え思い描いていたものと異なっていたとしても。「そのままで大丈夫」と何者も受容してくれる優しさがある。

 

私はその作品に溢れる優しさに何度も救われたし、何度も背中を押された。

 

芳崎先生の短編の鮮やかさや、切り口の鋭さ、目線の優しさを感じる作品はまだある。 そのうちの一つである『鞄図書館』の最新刊であり、最終巻も5月に刊行される。

 

鞄図書館4

鞄図書館4

 

 



 

また、こちらの「マンガ図書館Z」というサイトでは無料でいくつか芳崎先生の作品が読める。

https://www.mangaz.com/title/index?query=芳崎せいむ

初期の短編集も素敵な作品揃いだし、『ネコとケント』も個人的に大好きな作品だ。

 

幅広い作品の中に、きっと今の自分にそっと寄り添ったり、背中を押してくれる作品、興味をそそられる作品に出会えると勝手ながら思うので、是非触れたことが無い方は芳崎せいむ先生の作品を興味があれば触れて欲しい。