『Being at home with Claude〜クロードと一緒に〜』を観た話

『Being at home with Claude〜クロードと一緒に〜』は、ルネ=ダニエル・デュポワによって書かれたカナダの戯曲です。日本での初演は日本での初演は2014年にZu々主宰の方によって企画及びプロデュースで上演されたらしいので、初演からずっとZu々さんなんですね。

以下公式ホームページよりあらすじの引用になります。

「1967年 カナダ・モントリオール。判事の執務室。
殺人事件の自首をしてきた「彼」は、苛立ちながら刑事の質問に、面倒くさそうに答えている。男娼を生業としている少年=「彼」に対し、明らかに軽蔑した態度で取調べを行う刑事。部屋の外には大勢のマスコミ。
被害者は、少年と肉体関係があった大学生。
インテリと思われる被害者が、なぜ、こんな安っぽい男娼を家に出入りさせていたか判らない、などと口汚く罵る刑事は、取調べ時間の長さに対して、十分な調書を作れていない状況に苛立ちを隠せずにいる。
殺害後の足取りの確認に始まり、どのように二人が出会ったか、どのように被害者の部屋を訪れていたのか、不貞腐れた言動でいながらも包み隠さず告白していた「彼」が、言葉を濁すのが、殺害の動機。
順調だったという二人の関係を、なぜ「彼」は殺害という形でENDにしたのか。
密室を舞台に、「彼」と刑事の濃厚な会話から紡ぎ出される「真実」とは」

(『Lecture-Being at home with Claude 〜クロードと一緒に- Zu々 』

https://www.zuu24.com/withclaude2021/

 

 話を面白いと思うか面白くないと思うかは正直分かれるところだと思います。後半でも書きましたが観終わった直後作品を咀嚼しきれず、様々な方の感想を拝見したのですが見事に評価が分かれていてそれも大変興味深かったです。基本的に話は堂々巡りで前半は一向に進まない印象。待てども待てども焦点が当たっている殺人の真実が伏線の"ふ"の字も見えてこない。正直途中で退屈に感じてしまいました。(すいません)取り調べの恫喝するようなシーンも多いので、その手のシーンがちょっと苦手な人はキツいかもしれません。

 そして終盤のイーヴの独白により、事件の真実が明かされます。しかし、その真実に対して理解が出来るか出来ないかと言うとそれはまた別の問題になると思うのです。

 

 ここからは私の舞台を見ての解釈になりますが、イーヴは"彼"のことを心から愛している。"彼"と共にいる時間は心も身体も満たされるし、"彼"もイーヴのことを愛している。しかし、イーヴは人に愛されたこともなく、人を愛したことも無い男娼。最高の瞬間を永遠に閉じ込めるために"彼"を殺してしまった……ということなのかなと。劇中のイーヴのようにうまく言葉にすることができません。言葉にするととても陳腐になってしまう。

 

 "彼"に関してのイーヴの話はあくまでイーヴの主観であり、"彼"が実際どのようにイーヴのことを思っていたのか真相は解りません。恋人として愛していたのか、兄弟として愛していたのか、または己の半身として愛していたのか。(半身だとどちらの意味合いもありそうですが)穿った見方をすれば、インテリ故の興味の対象か、同情か、はたまた一時の気まぐれの可能性だってありうるのです。亡くなった"彼"について語るのは"彼"自身ではないのだから。

 また、亡骸の「"彼"は微笑んでいた」と言うような旨のことをイーヴは言っていますが、それも真実か解りません。イーヴの感情故にそう見えたのか。実際そうだったのか。そもそも"彼"はイーヴから殺されることを受け入れていたのか。そうではなかったのか。

 

 言ってしまえば、"彼"に関しては全てイーヴの主観的な見方であり、"彼"に対しての真実は劇中で明らかにされる客観的な部分以外はどこまでが真実で、どこまでがそうでないのか解らないのです。

 事件の真実も「"彼"を愛していたが故に殺した」と言う何とも身勝手でシンプルなもの。イーヴが殺した事実も変わりませんし、大きなどんでん返しもありません。

 この結末をどう捉えるかによってこの作品を面白いと感じるかそうでないかは大分変わってくると思います。そしてその捉え方は幅が広くて然るべきだとも。

 ちなみに、私は真実は解ってもその真実をすぐに理解はできませんでした。今も咀嚼していると言っても過言では無いと思います。

 

 同時に、その捉え方は後半の独白を演じるイーヴ役の俳優さん次第だとも強く思いました。正直俳優さんの解釈や演技によってかなり印象が変わるだろうなと。

 

 ちなみに初演は1986年だそうなので、ゲイに関する感覚は今と随分異なっているんだろうなあと思います。もちろん環境も。

 

 前回の2019年に上演された際に私のツイッターのフォロワーさんが多く行っていて、しかも凄く評判が良かったのです。興味はあったのですが、この際は日程が合わず断念。今回もうっかりチケットを取り忘れ、今配信があるということで配信で観たのですが、舞台と言う環境を活かしてこその作品だと感じています。最後の余韻に至るまで作品として成り立っているので、配信だと一端は解ってもきっと空気感までは味わえない。

 正直個人的な感想としては、前半の間延び感は拭えないですし、真実は理解できても自分の経験の尺度で計るとどうしても飲み込んで落とし所がないんです。

 それでもやはり後半のイーヴの独白は力があります。この独白を色々な俳優さんで見てみたいし、この独白から最後の余韻を味わうために舞台へ足を運ぶ価値があるなと。

 

 松田くんのイーヴと小早川くんのイーヴも2019年に見ておけば良かったと改めて思いますね。2人はどんなイーヴでどんな独白をしたのか思いを馳せてしまいます。